キリンの手記・宮下遊・水脈「歌詞」

#1

奇妙な光景だった。

最初は、目も眩むような 深い緑しか見えない景色に、

少しの混じりけも無い、白が浮いているのようにも思えた。

一体何かと確かめたくなった私は、足を取られながらも

必死に草を掻きぬけ正体のみえぬ「ソレ」へと進んだ

一瞬、目を奪われた。

真っ白な長い髪、白い服、大きなキャンバスにまるで溶けるようにしながら

一人の女が絵を描いていた。

画家は名を「ナズナ」と言った。

聞けば街を渡り歩きながら色を集めているとのことだった

 

「色を集める」とは私にはよく分からないが、それよりも重要なのは「街」という言葉である。

この時、ほぼほぼ道に迷っていると言ってもよかった私はこの者に付いてゆけば 良い景色も、街にも、辿り着けるのではないかと思い、しばらく同行させてもらうことにした。

それに、絵が出来上がるのを見ているのも、悪くはない。

 

#2

遥か、遥かに先まで青の広がる街に着いて、しばらく経つ。

ナズナが絵を描いてる間、私は商売に勤しんでいた。

ある時「過去に戻りたい」とやってきた男がいた。

それならば、君の一番大切な物と引き換えに、君を過去に戻そうと私が提案した。

男は黙って頷き、私は、「ただし、絶対に過去を変えてはいけないよ」と念を押した。

 

翌日「過去に戻りたい」とやってきた女がいた。

彼女の指には、私が昨日もらったものと、全く同じ指輪があった。

 

#3

商売が思いのほか長引き、ナズナに数ヵ月遅れて

私が次の行き先であると聞いていた、湖のある街へと足を運んでいた。

 

湖のほとりには、絵を描き続けるナズナが居た。

彼女の絵には、一面に広がる湖に、数え切れない程浮かべられた花、車椅子の子供。

 

しかし、彼女の目の前の湖に、花は一輪も浮かんであらず、

水面をじっと覗いてみれば、一面を埋め尽くすほどの花が沈んでいた。

 

結局この街で私は、彼女以外、誰一人として出会うことは無かった。

 

#4

とても小さな公園だった。

ナズナと共にいくつか街を回っているが、思った以上に、人の居ない街というのは多いものだ。

廃墟ばかりが並ぶこの街で、唯一、此処が色のある場所だという。

 

確かに動くものは居るのだが、なんと話しかけても「約束がありますので」

としか言わない機械相手では商売のしようが無い。

 

私は廃墟を隙間から見える夕焼けをじっと眺め、

此処だけ時が止まってしまったかのように感じていた。

 

#5

こんな相手に商売をすることになろうとは、などと思ったことは、一度や二度ではない。

しかし今回は格別だ、足が無く、体が透けている者などが、本当に存在していたとは。

聞けば体が病院で、まだ生きているのだと言う、が、それはそれでどうなのだと思う私が居た。

 

「大切な人を助けたい」と少女が言う。

 

その後、ある少年が街の病院から退院する少し前、長い間閉じて廊下の突き当り。

一番奥の病室が一つ、空いたと言う。

 

街のはずれにあるという病院、そこには一つの噂があった。

とても、ありきたりの噂だった。

ふと筆を止めた、ナズナが、言った。

「この町の病院、幽霊がでるんだって」

 

#6

画家が一人、居たと言う。

真っ白の長い髪、白い服を身に纏った、とても美しい女。

ふいに街を訪れてはとても長い時間をかけ一枚の絵を描く、時折、傍らには奇妙な男が、いたとか、いないとか。

白い髪は紫、 茜、 藍、 碧と次第に街の景色に少しずつ染まっていったという

人々は、女は街に色を塗り歩いたのだと噂していた。 

 

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詞 楽曲  宮下遊

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